行動経済学と感謝の気持ち

ついつい食べ過ぎてしまう季節がやってきました。アメリカでは大きな七面鳥を食べるのが伝統の感謝祭、またはホリデーパーティーなど色々と友人や家族と集まる機会が増えます。その際、アメリカの多くの行動科学者は、小皿を使ったり、慣れているフォークよりあえて慣れない箸を使ったりして、食べ物の消費スピードや量に影響を与えるような選択アーキテクチャを活用することを提案しています。しかし、行動経済学はそれだけでありません。今回は感謝祭の伝統である「感謝」について話してみたいと思います。

さて、感謝とはいったい何なのでしょうか?

心理学者のロバート・エモンズとマイケル・マッカローは、感謝の気持ちを2つのステップで定義しています。

1."肯定的な結果を得たことを認識すること"

2."このポジティブな結果には外的要因があることを認識すること" 。つまり、私たちは他人や世界に対して感謝することはできても、自分自身に対して感謝することはできないのです。

しかし、日常生活で感謝の気持ちを持つことのメリットはあるのでしょうか?

答えはイエスです。ポジティブ心理学の研究によると、感謝の気持ちを持つことは無数の利点があることが分かっています。感謝の気持ちを持つことは、幸福感、気分、健康、自尊心、より良い睡眠に良い影響を与えます(Wood et al.、2010)。50組のカップルを対象にした研究でも、感謝の気持ちの表出が、人間関係の満足度と正の相関があることが分かっています(Gordon et al.)

特に、EmmonsとMcCulloughは、参加者に週単位で感謝日記をつけるように指示した研究があります。面倒なことや中立的な出来事を日記に書くように指示された参加者と比べて、感謝の条件を満たした参加者は、全体的に自分の人生についてより良く感じ、より楽観的で、身体的症状が少なく、より多くの時間を運動に費やしたことを報告しました(2003年)。

文字通り、仕事における感謝

感謝は職場にも多くの影響を与えます。従業員に感謝の気持ちを示すことが従業員のモチベーションに貢献することは直感的かもしれませんが、それ以外にも「職場における有害な感情(嫉妬や不公平など)に対する解毒剤」として機能するなど、多くの波及効果があります (Emmons, 2003)。

感謝は向社会的行動を促進し、従業員が組織により多く貢献するようになることも示されています (Grant & Gino, 2010)。従業員は、感謝されていると感じると、能力や社会的価値をより強く感じるようになり、より多くの仕事を進んでこなしたり、自分の役割や責任にもっと力を入れたりといった向社会的行動を行う動機となる可能性があります。

さらに、感謝は職場における心理的安全性を高めることもできると報告されています(Edmondson, 2002)。心理的な安心感があれば、従業員は自分の考えを表現するようになり、組織の創造性や革新性を高めることにつながる可能性があります。

もっと「ありがとう」と言おう!

家庭でも職場でも、日常生活の中でもっと感謝を実践したいとお考えなら、心理学者のマーティン・セリグマンは「3つの良いこと(Three Blessings)」と呼ばれるエクササイズを考え出しました。簡単に言うと、人は以下のことをするべきだそうです。

1.起こった良いことを3つ考え、書き出してみる。

2.なぜそのようなことが起こったのかを考える

3.だから、一日のうちで時間をとって、家族や職場のチームに単純に感謝の気持ちを伝えましょう。大げさなことでなく、真摯な態度で臨めば、家族も部下も感謝の気持ちを持つことができるのです。

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